【定性調査のまとめ方】
レポート作成の基本手順と分析方法を解説
定性調査が終わったら、分析結果をレポートにまとめて関係者と共有する必要があります。しかし、グループインタビューやデプスインタビューでは膨大な定性情報を収集するため、「分析方法やまとめ方がわからない」という方もいるのではないでしょうか。今回は、定性調査のレポートを作成する基本手順や分析方法を解説します。
定性調査の結果をまとめる基本手順
定性調査の結果をまとめる手順は、大まかに3つのステップに分けることができます。具体的に何をするのか、順に見ていきましょう。
1.発言録を作成
まず、データをまとめる準備として発言録を作成します。
発言録とは、グループインタビューやデプスインタビューでの参加者の発言をテキストに起こし、ExcelやWordで一覧表にまとめたものです。
作成方法は、インタビュー会場で記録者(リライター)が速記しながら作成する方法と、録音データを元に作成する方法があります。
発言内容はできる限り話された言葉をそのまま書き起こします。そのままでは意味が通りづらい場合は、発言のニュアンスが損なわれないように整えます。
<発言録の例>
2.発言内容を整理・分析
次に、発言録の内容を精査・整理して分析を行います。
分析方法に決まりなどはありませんが、基本的には調査フローに沿って各参加者の発言内容を大まかに把握し、ポイントとなる発言をピックアップ・整理します。具体的には、調査の目的・仮説に関係するワードや、共感が多い発言、類似したワードなどです。
ピックアップした発言・ワードはグルーピングするなどして分析し、仮説の検証や新たな知見・アイデアの発見につなげます。
3.レポート作成
分析結果を調査目的に沿って整理し、レポートを作成します。グループインタビューの場合は、グループごとの発言内容の傾向・特徴や、グループ間の結果の違いがわかるように、デプスインタビューでは個々のペルソナやインサイトが把握できるようにまとめます。
インタビューの内容を整理・分析する方法
定性データを整理するノウハウがなければ、グループインタビューやデプスインタビューの膨大な情報をまとめるのは容易ではありません。
ここでは、インタビュー内容の整理・分析に役立つ3つの手法を紹介するので、まとめる際の参考にしてください。
テキストのコード化・グルーピング
インタビューの生データである発言録を整理する際に便利なのが、コード化やグルーピングです。コード化とは、インタビュー参加者の個々の発言内容を端的な言葉に言い換えて、コードを振り分ける作業です。コーディングとも言います。
例えば、香水のデザイン調査で第一印象を問う質問において、以下のような発言があったとします。
『シンプルだけど高級感があって、部屋に置いてあるだけでテンションが上がりそう。大人かわいい女性が持っていそうな印象をもちました。』
一連の発言を以下のように分類してコードを振り分けます。
<コードの例> | ||
---|---|---|
|
→ | デザインの印象 |
|
→ | ユーザーの気分 |
|
→ | ユーザーのイメージ |
発言録全体を通してこの作業を行い、類似した発言やコードがある場合はさらに抽象化したグループに分類します。コードやグループは連番を付けたり、色分けしたりするとわかりやすいです。
コード化やグルーピングによって個別の具体的な発言にまとまりが生まれ、調査結果の解釈・分析がスムーズに行えるようになります。
KJ法
定性情報やアイデアの整理手法として用いられる『KJ法』も発言録の整理に役立ちます。KJ法は考案者で文化人類学者の川喜田二郎氏のイニシャルから命名されました。
KJ法では、収集した情報を一つずつ付箋などの紙(カード)に書き込み、類似したものをグルーピングして整理・分析を行います。
定性調査においては、前項で紹介したコード化・グルーピングと組み合わせると効率的です。KJ法での整理手順は以下の通りです。
- 発言録で分類したコードを付箋に一つずつ書き込む
- 付箋をいくつかのグループに分ける
- 各グループに見出しを付ける
- グループ間のつながり・関係性を分析する
- 導き出された構造を図解するなどしてまとめる
KA法
『KA法』は定性情報の分析に便利な手法で、名称の由来は考案者である浅田和実氏のイニシャルです。
KA法では『KAカード』と呼ばれる以下のようなフォーマットに、一人ひとりの発言内容をあてはめていくことで分析します。
インタビュー調査や行動観察調査から抽出した 出来事 |
|
---|---|
「出来事」から想定されるユーザーの 心の声 |
「出来事」と「心の声」から導き出される 価値 |
KAカードを作成する手順は以下の通りです。
- 実際の状況・行動などの事実や結果を「出来事」に記入する
- 「出来事」で感じているであろう「心の声」を記入する
- 「出来事」と「心の声」を元に抽出した「価値」を記入する
<KAカードの例>
育児や仕事で忙しいので、毎日のスキンケアは化粧水と乳液だけで済ませている | |
---|---|
このままだとシミやしわが増えるな~ | 単品で保湿から美白・しわ予防まで行える価値 |
このようにしてKAカードを複数作成し、それらをグルーピング・整理することで新たな商品アイデアの発想につなげます。
分析・レポート作成時の注意点
定性調査を分析してまとめる際は、以下の点に留意しましょう。
定量的に分析しない
グループインタビューなどの定性調査の目的は、生活者やユーザーの生活実態やインサイトなどの「質的な情報」を取得することです。アンケート調査のように数値や割合で分析する調査とは異なるため、「6人のうち4人がA案を好んでいるから、A案を採用するべきだ」といった定量的な判断はNGです。
調査の目的や仮説に沿ってまとめる
定性調査では、本来の調査目的とはあまり関係のない情報も多く取得しやすいので、分析・レポート作成時はそれらに引っ張られないようにする必要があります。基本的には、「目的や仮説に対する結果はどうだったのか」「どのような分析を行い、どんな示唆・知見が得られたのか」といった観点でまとめていきます。
本来の目的・仮説とは関連性が低いけれども興味深い知見・発見が得られた場合は、レポートの本筋に含めない形で記載しておくと良いでしょう。
報告・共有する相手に応じたレポート形式で
定性調査のレポート形式は大きく2タイプに分けられ、報告・共有する相手に合わせて使い分けることも重要なポイントです。
<サマリーレポート>
- 調査内容や結果の要約を数ページにまとめたもの
- 経営層やマネジメント層への報告に用いることが多い
<フルレポート>
- 調査内容・結果に加えて調査項目ごとの詳細な分析内容や知見もまとめたもの
- 個別の発言録や分析に用いたデータ類も含め、枚数は数十~100ページ程度
- 上司やクライアント企業の担当者への報告に用いることが多い
調査結果を簡潔に把握したい相手にフルレポートは不要ですし、詳細まで共有してディスカッションする必要がある相手にはサマリーレポートでは不十分です。
膨大な定性情報を整理してわかりやすいレポートを
定性調査の結果をわかりやすくまとめるには、まずは膨大なデータを整理してポイントとなる発言・情報を抽出する必要があります。今回ご紹介したコード化やKJ法、KA法といった手法は、具体的な定性情報をカテゴライズしたり、新たなアイデアにつなげたりするのに役立ちます。レポートは「目的や仮説に対してどのような結果・知見が得られたのか」といった観点で作成して関係者と共有し、次の検討・アクションや意思決定につなげましょう。