商品開発に役立つ調査とは|
プロセスごとの活用シーンと調査の種類
ライフスタイルや価値観の多様化が進む今、商品開発においては消費者の視点・ニーズをしっかり捉えることがますます重要になっています。
本記事では、商品開発のプロセスごとに、どのような調査が役立つのかを整理しました。また、定量調査・定性調査の種類と特徴についても見ていきます。
商品開発のプロセスと調査の活用シーン
商品開発のプロセスは、概ね以下のように整理できます。
- ニーズの把握・アイデアの発見
- コンセプト設計
- 価格帯の決定
- パッケージ・ネーミングの策定
- 試作品のテスト
- 広告・プロモーション施策
- リリース後のモニタリング
これらの各工程で重要となるのが、消費者の視点やニーズを的確に把握することです。プロセスごとに、どのような調査が有効なのかを見ていきましょう。
1. ニーズの把握・アイデアの発見
商品開発の第一歩は、消費者のニーズを把握することです。ニーズを探索する方法には定量調査と定性調査があり、それぞれの特徴を踏まえて活用することが重要になります。
●定量調査
定量調査では、ターゲット層が抱えている悩み・不満・課題などの傾向を数値的に把握できます。どのようなニーズがありそうか、仮説を立てたい場合に役立ちます。
●定性調査
定性調査は、消費者自身も気づいていない潜在ニーズを発見したい場合や、インサイトを探りたい場合に役立つ調査手法です。調査を活用して消費者の実態やインサイトを捉えることで、開発者の目線だけでは思いつかなかったようなアイデアが見つかるなど、商品開発の方向性を定める上で大いに役立ちます。
また、定量調査と定性調査を組み合わせることで、より理解を深めることができます。
- 定量調査からわかった傾向を定性調査で掘り下げて詳細を把握する
- 定量調査から考察した仮説を定性調査で確認する
- 定量調査を実施する前に定性調査を行い、定量調査の質問設計の精度を高める など
2.コンセプト設計
商品のコンセプトがターゲット層に受け入れられるか、訴求すべき点は何かを確認するための調査を行います。コンセプトに対する反応や購入意向度を事前に調査することで、リリースしたものの全く反響がないという事態を避けることができます。
コンセプト調査では、次のようなことを明らかにします。
- コンセプトについて魅力を感じるか
- 複数のコンセプト案に対して、魅力的と思うものはどれか
- コンセプトによる購入意向度はどれくらいあるか
- どのような層に受け入れられるか
- 競合商品と比較して、どの部分に魅力を感じるか
定量調査でコンセプトへの評価を数値的に把握し、デプスインタビューやグループインタビューなどの定性調査で、その理由を掘り下げていくという方法もあります。改善すべきポイントが明らかになれば、より独自性の高いコンセプトへとブラッシュアップしていくことができます。
3.価格帯の決定
商品の価格帯を決める際は、消費者の価格感度を調べるPSM(Price Sensitivity Meter)分析が役立ちます。アンケート調査などを活用して、消費者から「最低価格・最高価格・妥当価格・理想価格」に関する質問を設けて4つの情報を収集し、商品が市場に受け入れられる価格帯を計測します。
価格設定は売上・利益を最大化する上で重要になるものですが、これ以外にも、商品自体のイメージやブランドのポジショニングを左右するなど多方面に影響を与えます。これは一般に「価格=品質」と認識されているためです。
単に売上・利益の観点だけでなく、商品コンセプトやブランドとしてのポジショニングを視野に入れて価格戦略を検討することが大切です。
4.パッケージ・ネーミングの策定
パッケージ・ネーミングは、商品のコンセプトや特徴を視覚的に伝えるものです。消費者はパッケージ・ネーミングから受ける印象でベネフィット(便益)を感じ取ったり、購入意向度が高まったりするため、重要なプロセスです。
調査では、次のような点を確認します。
- パッケージ・ネーミングの視認性はどうか(目立つか・簡単に認識できるか)
- どのようなパッケージ・ネーミングが消費者に好まれるか
- 自社が想定しているイメージを訴求できるか
- 気に入った点・気に入らない点はどこか
具体的には、いくつかの案を提示して反応を見るという方法が多く用いられています。調査方法にはアンケートなどの定量調査のほか、グループインタビューなどがあります。
5.試作品のテスト
商品を市場に出す前に消費者に試作品を使ってもらい、そこで得た情報をもとに商品をブラッシュアップしていきます。
試作品を用いた調査では、次のようなことを明らかにすることができます。
- 複数の試作品の中で評価が高いものはどれか
- 試作品が市場ニーズに合っているか
- 実際の陳列棚を再現して、自社の商品が選ばれるか
調査方法には、実際の生活の中での使用感を試してもらうホームユーステストや対象者を会場に集めて商品を試してもらう会場調査、グループインタビューがあります。また、一定の地域にのみ流通させて反響を見るテストマーケティングも有効な手法です。
6.広告・プロモーション施策
広告・プロモーションの効果を高めるための調査を行います。最適な広告表現や、チャネルにおける訴求ポイントを明らかにすることができます。
- 複数の広告デザイン・CM案などの中で、もっとも興味喚起するものはどれか
- ターゲットに訴求する上で、どのチャネルが有効か
具体的には、アンケートなどの定量調査のほか、インタビューなどの定性調査を実施してターゲットの反応を見るという方法があります。
7.リリース後のモニタリング
商品を市場にリリースした後も、次のような状況をモニタリングして改善につなげていくことが重要です。
- 顧客満足度はどうか
- 想定したターゲット層が購入しているか
- 市場における認知度・浸透度はどれくらいか
- 広告・プロモーションの効果はどうか
問題点が見つかった場合は、4P(Product・Price・Place・Promotion)を見直すなどして、対応していきます。
商品開発に役立つ調査の種類
商品開発では、様々な場面で消費者の情報やデータが必要になります。どのような調査手法があるのか、定量調査と定性調査に分けて見ていきます。
定量調査
定量調査は、全体の傾向を数値的に押さえたい場合の調査手法です。
アンケート調査
定量調査の中でも代表的なものがアンケート調査です。現在は、インターネットを介して行うWebアンケートが一般的です。ターゲットの行動実態や課題・ニーズを定量的に把握できます。
多くのサンプル数を集めやすいため、市場におけるポジショニングなどを確認できるコレスポンデンス分析や、ターゲットの特性を整理できるクラスター分析など、様々な角度から分析したい場合に適した調査手法です。
ホームユーステスト(HUT)
ホームユーステストとは、一定期間、対象者の自宅で商品を試用してもらい、その後アンケートを用いて評価を確認する調査方法です。新商品の受容性を確認したい場合や、既存商品のリニューアルに向けて調査したい場合、競合商品との比較を行いたい場合などに有効な手法です。
アンケートでは、使用感や全体に対する評価、機能別の評価、購入意向度などを答えてもらいます。
会場調査(CLT)
会場調査とは、対象者を会場に集めて行う調査方法のことです。実際に商品を手に取ってもらい感想や意見を収集したり、売り場を再現して効果的な陳列方法を確認したりするなど、直接的に対象者の反応を観察したい場合に適しています。
定性調査
定性調査では、対象者の言葉や反応、詳細な行動実態とその背景にある要因など、定量的に測れない情報を集めることができます。
デプスインタビュー
デプスインタビューとは、対象者とモデレーターが1対1で行う対話形式の調査手法です。対象者の発言に合わせて質問を掘り下げていくことができるため、対象者本人も気づいていない潜在ニーズやインサイトを発掘したい場合に役立ちます。
現在は、居住地を制限されないオンラインインタビューが主流となりつつあります。また、より手軽に実施できるチャット形式のインタビュー調査のサービスも提供されています。
グループインタビュー
4〜8名程度の対象者を集めて、テーマに合わせて参加者同士で自由に発言してもらう調査手法です。モデレーターは進行役を務めます。商品に対する評価や反応を確認したい場合に適しています。
グループインタビューでは、属性・嗜好・ライフスタイルなどが似ている対象者を1グループとして実施します。対象者の特性による反応の違いを比較したい場合は、異なる特性のグループをいくつか作り、差異を確認するという方法をとります。
エスノグラフィ調査
エスノグラフィ調査とは、行動観察とも呼ばれる調査手法です。対象者の行動を観察することで、課題・ニーズや価値観に対する理解を深めたり、洞察を得たりすることができます。
購買活動の背景には様々な要因が複雑に絡み合っているため、消費者自身が理由を自覚していなかったり、言語化できなかったりするケースが少なくありません。エスノグラフィ調査を用いることで、消費者が無意識に行っている行動も把握できるなど、真の実態に迫ることが可能です。
ヒット商品を生み出すには消費者の目線を忘れないことが大切
商品開発の現場では、ともすると開発者の思い入れが強くなってしまうことがあります。しかし、ヒット商品を生み出すには常に消費者の目線を忘れないことが大切です。市場競争が激しくなっている今、自社商品のポジションを築くには調査による情報収集が必須といえます。様々な調査手法を理解した上で、有効に活用してみてはいかがでしょうか。